Y氏は信州の田舎町にある総合病院に勤める内科の医者である。今年で42歳になった。厄年のようだが、厄は数え年なので、年が明ければ数えで44歳になるから後厄も終わる。医者のくせに厄年などにこだわるのはおかしいのだが、3年前から心身の不調を覚え、気分の晴れない日々を過ごしている彼は、「あなた、厄年なのよ」と、妻に言われた日から厄を気にしている。3年前のある秋の日、Y氏はいつものように病棟の回診を始めようとしてナースセンターから廊下に出たとたん、激しい動悸とめまいに襲われてその場に倒れてしまった。すぐに内科病棟に入院してありとあらゆる検査を受けたが、結果はすべて異常なしだった。しかし、またいつ発作が起こるかも知れないと考えるとたまらなく不安になり、外出もままならなくなった。パ二ックディスオーダー(恐慌性障害)という聞き慣れない診断名をつけてくれたのは同僚の心療内科医だった。「最近増えている心の病気です。まあうつ病のようなものだと思って下さい」心療内科医はやさしく微笑んで薬を処方してくれた。薬を飲むと底知れない不安感はだいぶ薄らいだが、以前のようにハードな勤務はできなくなった。すぐに心身ともに疲れ切ってしまうのである。